大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 昭和25年(行)102号 判決

原告 高橋徳

被告 国

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が別紙目録記載の不動産につき昭和二十三年八月一日附岩手と第六九二号買収令書をもつてなした買収処分は無効であることを確認する、被告は、右不動産につき盛岡地方法務局渋民村出張所昭和二十五年三月三十一日受附第一九三号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をなすべし、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和十三年三月二十三日訴外高橋兵庫からその所有の岩手郡巻堀村大字好摩第五地割三十一番字築袋畑七反四畝十九歩のうち二千二百三十九分の千二百三の持分を買い受けてこれが共有者となつた、しかして右原告は右買受に際し訴外玉山広治から金を借りた関係上、これに対する担保の意味で、前記共有持分の移転登記手続にあたつては、その取得名義人を右玉山広治となしたのであるけれども、同人は単なる担保権者たるにとどまりこれが共有者となつたのではない。爾来原告及び前記高橋兵庫は共有者として各自の持分に応じ実際上の使用区分を定めてそれぞれこれが使用収益をなし、原告はその使用区分に係る部分を訴外高橋喜兵衛に小作せしめて小作料を収納し来つたものである。しかして昭和十六年四月上旬原告は前記玉山広治に対し借金を返済し担保権も消滅したが、同人とは義兄弟の間柄でもあり、何時でも同人から原告に前記共有持分の移転登記手続をなし得るものと考え、その後も依然右玉山広治名義のままにして置いたのである。その後前記畑七反四畝十九歩は巻堀村耕地整理組合の耕地整理施行地区に編入され、耕地整理の結果、原告に対し(但し名義は玉山広治)別紙目録記載の田地を含めた十筆の田地に換地せられたのであるが、巻堀村農地委員会は別紙目録記載の土地につき、昭和二十三年五月二十三日自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第三条第一項第二号に該当するものとして、前記高橋兵庫外一名を名宛人として買収計画を樹立し、岩手県知事は県農地委員会の所定の承認手続を経て同年七月二日を買収の時期とする同年八月一日附買収令書を発し、右令書は同年十月十三日高橋兵庫のみに交付された。

しかしながら右買収処分には左のような違法がある。

(一)  買収処分は買収される個々の所有者に対してなすべきが建前であつて、買収物件が共有に係る場合であつては、その共有者全員に対してその手続をなすべきであるにかかわらず、前記買収計画及び買収令書交付の手続を通じて高橋兵庫外一名と表示されたのみで原告若しくは登記簿上の共有名義人玉山広治の名は全然表示されてをらず、高橋兵庫以外の共有者に対しては買収令書の交付もなかつたのであり、本件買収処分は共有者の一人である高橋兵庫のみに対してなされた違法がある。

(二)  仮りに本件買収処分が高橋兵庫及び玉山広治を相手方としてなされたとしても、別紙目録記載の土地は原告及び高橋兵庫の共有であつて、右玉山広治は単に登記簿上の共有名義人にすぎない。しかるに巻堀村農地委員会及び岩手県知事は公簿上の所有名義に捉われ、右土地を高橋兵庫及び玉山広治の共有なりとして真の共有者原告を無視して買収手続を処理したため、原告は買収手続の存在を知るに由なく、従つてこれに対する異議、訴願を申立てることができなかつたのである。

しかして以上の違法はいずれも重大であつて本件買収処分は当然無効であり、従つて右買収処分に基いて昭和二十五年三月三十一日別紙目録記載の土地につき被告に対してなされた所有権移転登記もその登記原因の無効により抹消されるべきものである。よつて別紙目録記載の土地につきなした被告の買収処分の無効であることの確認を求めるとともに、被告に対してなされた右土地の所有権移転登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の土地が耕地整理施行前その主張のような畑地であつたものを耕地整理の結果その主張の土地に換地されたこと、巻堀村農地委員会が原告主張日時、原告主張の土地につき自創法第三条第一項第二号に該当するものとして訴外高橋兵庫外一名を名宛人として買収計画を樹立し、岩手県知事が原告主張日時を買収の時期とする買収令書をその主張日時附をもつて発行しその主張日時右令書が高橋兵庫に交付されたこと、原告主張日時被告に対し別紙目録記載の土地につき所有権移転登記がなされていることはいずれもこれを認めるが、原告その余の主張事実はこれを争う。右土地は前記高橋兵庫及び訴外玉山広治の共有であり、買収令書に記載された高橋兵庫外一名の「外一名」とは右玉山広治のことを指称するのであつて、本件買収処分は右両名を相手方としてなされ、且つ買収令書も右両名に交付されたのであり何等違法はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

岩手郡巻堀村大字好摩第五地割三十一番字築袋畑七反四畝十九歩が元訴外高橋兵庫の所有であつたところ、耕地整理施行の結果別紙目録記載の土地を含めた十筆の土地に換地されたこと、巻堀村農地委員会が昭和二十三年五月二十三日別紙目録記載の土地につき、自創法第三条第一項第二号に該当するものとして高橋兵庫外一名を名宛人として買収計画を樹立し、岩手県知事が同年七月二日を買収の時期とする買収令書を同年八月一日附をもつて発行し、右令書は同年十月十三日高橋兵庫に交付されたこと及び昭和二十五年三月三十一日別紙目録記載の土地につき被告に対し所有権移転登記手続のなされたことはいずれも当事者間に争がない。

よつて按ずるに、成立に争のない甲第一号証、第二号証の二、第三、第四号証、第七号証の一ないし六及び証人玉山広治、高橋喜兵衛、工藤定平の各証言を綜合すれば、前記畑七反四畝十九歩は元訴外高橋兵庫の単独所有であつたところ、昭和十三年三月二十三日原告がその二千二百三十九分の千二百三の持分を同人より買い受けて右土地の共有者となつたこと、原告は右買受に際し訴外玉山広治から金を借りた関係上、これに対する担保の意味で右持分の取得名義人を同人となして前記共有持分の移転登記手続をなしたものであること、その後間もなく原告の玉山広治に対する債務は返済されたこと、その後右土地は巻堀村耕地整理組合の耕地整理施行地区に編入され、耕地整理の結果別紙目録記載の土地を含めた十筆の田地に換地されたがその取得名義人を依然前記玉山広治としていたこと、前記原告と高橋兵庫との共有地は右換地の前後を通じ、共有物分割の手続をなさなかつたが実際上共有者各自の使用区分を定めてそれぞれ使用収益をなし、原告においてその持分に相当する部分を高橋喜兵衛に小作せしめて自ら小作料を収納し公租公課を納付し来つたこと、巻堀村農地委員会は前記土地を登記簿上の記載に則り高橋兵庫及び玉山広治の共有と認定しながらその全面積を高橋兵庫の所有小作地に加算し、自創法第三条第一項第二号による法定の小作地保有面積を超過するものとして別紙目録記載の土地につき、名宛人を高橋兵庫外一名として昭和二十三年五月二十三日買収計画を樹立したこと、岩手県知事は右のような名宛人の記載ある買収令書を発行し同年十月十三日これを前記高橋兵庫のみに交付したことを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠がない。しかして右高橋兵庫外一名の「外一名」とは前記玉山広治を指称したものであることを窺知するに難くない。

以上の事実によれば、本件買収処分は登記簿上の共有名義に則り高橋兵庫及び玉山広治を相手方としてなされているが、右玉山広治は本件土地の名義上の共有者にすぎず、高橋兵庫と共にもう一人の真の共有者は原告であつて、真の共有者全員を相手方として買収手続をなすべきにかかわらず右のように真の共有者一人につきその認定を誤り原告を無視してなした本件買収処分は違法たるを免れない。

そこで右の違法が右買収処分を無効ならしめる程度の瑕疵に該当するものであるかどうかについて考えるに、一般に或る行政処分が無効であるとされるのは、その処分に内在する瑕疵が重要な法規違反であり、且つその瑕疵の存在が外観上明白である場合と解すべきところ、自創法に基く農地等の買収処分は、法定の要件を具備する場合になされるべく、その要件は買収の対象とされる農地とその所有者との関係によつて定まり、特に同法第三条第一項第二号の法定の保有小作地の面積を超過することを理由として買収する本件の如き場合にあつては、買収の対象とされる当該農地の所有者が何人であるかによつて買収要件具備の有無が決定的に左右されるのであるから、真実の所有者を誤まることはまさに実体上の重大な瑕疵に該るものといわなければならず、このことは共有の場合にあつて真の共有者を誤るときも全く同様である。

しかし一方当時自作農創設事業につき一時に多数の案件をしかも急速に処理することを強く要請された買収機関としては、当該農地等の所有権の帰属の認定につき土地台帳または登記簿等の公簿を有力な資料となすことのあるのは勿論であり、従つてこれに依拠して処理した結果真の所有者でない者を買収手続の相手方となすことがあつたとしてもそのような違法は外観上明白な瑕疵であるとなすことを得ない。

しからば本件買収処分において、共有者の一人を誤つた違法があり、その違法は重大ではあるが、しかしいまだもつて明白な瑕疵の存する場合となし難く、従つて右買収処分をもつて当然無効であるとなすことはできない。この点に関する原告の主張は失当である。従つて本件買収処分の無効を前提とし、被告に対し別紙目録記載の土地につきなした所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求もまた失当であり、結局原告の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!